火星の虹

火星の虹 (ハヤカワ文庫SF)

火星の虹 (ハヤカワ文庫SF)

 科学者の兄と軍人の弟、双子のアレクサンダー率いるアメリカ中心の船団は火星を根城にする新生ソビエトの排除に成功する。火星に残り研究を続ける温厚な兄と、栄光を期して地球に凱旋する虚栄心の強い弟の運命は大きく分かたれることになる。

 反物質というフィクションを導入することで細々した苦労を極力排除し、科学的考察を交えながら火星の光景を描く火星篇の出来の良さと、ちょっとした印象操作と本人のカリスマで全世界の思想を征服してしまう地球篇の酷さとのギャップが激しい。
 技術的なディティールを追求する小川一水タイプのハードSFも好きだが、その辺りは誤魔化して科学が推察する美しい面だけを見せる手法も悪くないと感じた。


 正直、火星の風景を読みたいのなら『火星縦断』の方が地球篇がないだけ、よほどおすすめ。