ペリー・ローダン通読会100巻突破記念企画 作家別作風解析

 ローダン100巻までを担当した6人の作家の作風について、登場順に紹介していきます。
 作品のナンバリングは、日本版をベースに前半にa、後半にbをつけて表記しています。例えば35aは、35巻『アトランティス最後の日』前半「半空間に死は潜みて」を指します。

 誰が何話を担当しているかということについては、昨日の記事を参考にしてください。
http://d.hatena.ne.jp/fujigawa/20140812

K. H. シェール

初出
1a「スターダスト計画」
担当作数
32話(〈第三勢力〉9話、〈アトランとアルコン〉8話、〈ポスビ〉7話、〈第二帝国〉7話)

 記念すべきローダン第1話を担当したのは、プロット作家として初期ローダン・チームを率いたシェールです。最初から参加している割には担当数は4番目と振るわないのは、調整役としても多忙だったからでしょうか。

 〈第三勢力〉サイクルでは、1a「スターダスト計画」で口火を切った他、5b「ヴェガ星域戦」で舞台を太陽系外に移した他、10a「宇宙の不死者」で超知性体"それ”と細胞活性シャワーを登場させ、ローダンが年齢を気にせず活躍し続ける下地を作るなど、展開を大きく動かす話を担当することが多いように思えます。
 〈アトランとアルコン〉では、幕開けとなる25b「アトラン」において、シリーズではじめて一人称文体を導入しています。一話丸々アトランが一万年前の昔語りをするという異色作30b「アトランティス要塞」、35b「アトランティス最後の日」ももちろんシェールによるものです。
 〈ポスビ〉サイクルにおいても、50b「超種族アコン」は別として、ほかの作品ではアトランによる一人称スタイルは引き継がれます。ローダン以外の一人称スタイルは〈第二帝国〉サイクルではUSOの二人のスペシャリスト、レミー・デンジャーとメルバル・カソムの二人の報告書が交互に並ぶという体裁に進化していきます。

 ローダンの生みの親(?)ではありますが、一方で自分の担当ではローダン以外に積極的に焦点をあて、作品の世界を広げることに腐心していたという印象です。ひとり語りスタイルは他とひと味違い、毎回楽しんでいた記憶があります。

クラーク・ダールトン

初出
1b「《第三勢力》」
担当作数
52話(〈第三勢力〉18話、〈アトランとアルコン〉15話、〈ポスビ〉10話、〈第二帝国〉9話)

 プロット作家だったシェールとともに初期ローダンを支えたのが、クラーク・ダールトンだといえるでしょう。2話目で登場して以来、200話まででの担当数は最多。2話連続で担当することも多く、シリーズのテンポを作っていきました。

 ダールトン担当作最大の特長は、なんといっても荒唐無稽な大作戦です。
 しばらくはアルコン帝国に勝ち目がないので、やられた体にして引きこもるんだ! と見ず知らずの惑星を地球に見立てる偽装作戦で〈第三勢力〉サイクルを締めくくった24b「地球替え玉作戦」、25a「地球死す」という一大作戦を展開したりと、いささか強引でも勢いのある作品が多くあります。また、グッキー、イルツ夫妻以外の未熟なネズミ=ビーバーたちが行方不明のローダンを探す冒険に出る95a「ネズミ=ビーバー遠征隊」、95b「ゲッコ提督」なんていうユーモラスな作品もいけます。

 思わせぶりな単発設定を出しては、忘れた頃に回収するといった芸当もやってのけます。16b「無限への散歩」で登場した、銀河間を孤独に旅する古種族バルコン人が次に登場したのは、63b「影たちの攻撃」でした。また、未来へ精神を飛ばせるという魅力的な超能力を持ちながら、4a「宇宙からの侵略」(マール)で表舞台から退場していたエルンスト・エラートを〈アトランとアルコン〉サイクルのドルーフ禍では重要人物として復活させ、〈ポスビ〉サイクルでも70b「死者、死すべからず」で活躍させるなど、自分の担当作以外にも目を配って、活用できるものは何でも使ってシリーズを盛り上げてくれました。

 整合性は多少無視してでも迫力を重視する展開に、数十話越しの伏線回収と、超長編スペース・オペラであるペリー・ローダンのイメージ形成に一番近いのがダールトンでした。

クルト・マール

初出
3a「非常警報」
担当作数
49話(〈第三勢力〉16話、〈アトランとアルコン〉13話、〈ポスビ〉11話、〈第二帝国〉9話)

 担当数ではダールトンに迫る2位のマールですが、豪華キャストをふんだんに使った大作好みのダールトンに対して、無名俳優を発掘して低予算ながら丁寧な作品が中心となり、好対照な二人となっています。

 15a「宇宙商人スプリンガー」、15b「パルチザン、ティフラ―」は、シリーズで初めてローダン以外を主役に立てた作品です。若きホープ、ティフラ―候補生を中心とするアカデミーの若者たちが淡い恋心やらプライドやらに頭を悩ませながら、スプリンガー相手の絶望状況を打開していく異色作でした。
 ローダンたち中心メンバーの関与が薄いところで進む物語は、〈アトランとアルコン〉サイクルでのグレイ・ビースト流刑囚や、〈ポスビ〉サイクルでの宇宙社会開発援助部隊「第三課」の活躍などにつながっていきます。艦隊やミュータント部隊の助けなしで頑張る「一般テラナー」を描いているので、なんだかんだでローダン頼りな他の作品とは違った冒険譚が楽しめます。とはいえ、グレイ・ビーストには実は艦隊の密かな手助けがあったり、「第三課」もスーパー・ロボットのミーチ・ハニガン軍曹が無双して終わる展開が多かったりというのは、そこはやはりローダン的なのかもしれません。

W.W.ショルス

初出
3b「ミュータント部隊」
担当作数
4話(〈第三勢力〉4話)

 ショルスは第1サイクルで4話書いただけでローダン・チームを離脱してしまいましたので、語ることは多くありません。
 ただ、ショルスが担当した3b「ミュータント部隊」は、その後のローダンの活躍の原動力となったミュータント部隊が文字通り誕生した作品。内実は、ほとんど誘拐同然に集めるんですが、放射線の影響でポジティブなミュータントが誕生したという設定上、メンバーの中心となるのは日本人。有名なタコ・カクタを始め、奇天烈な名前の日本人が多く登場しますが、どうもショルスが日本の電話帳を参考につけたようなことがドイツ本国のサイトにかいてありました。また、ここで同時に財布の紐を握るホーマー・G・アダムスも登場しています。
http://www.perrypedia.proc.org/wiki/W._W._Shols

クルト・ブラント

初出
17b「裏切り者レヴタン」
担当作数
35話(〈第三勢力〉2話、〈アトランとアルコン〉10話、〈ポスビ〉12話、〈第二帝国〉11話)

 ブラントは〈第三勢力〉サイクルでも2話担当してはいるものの、主に〈アトランとアルコン〉以降で活躍しています。

 本筋に積極的に係るようなサイクル・ゲストを上手く使うのがブラントの特徴でしょう。34a「シリコ第五衛星での幕間劇」で登場したローダンとトーラの息子、トマス・カーディフはその後2つのサイクルにわたってローダンを苦しめ、「テラナーの最大の敵はテラナー」という言葉を知らしめました。
 その後は〈ポスビ〉サイクルのヴァン・モデルス、〈第二帝国〉サイクルのティル・ライデンと、個性的な科学者をローダンのもとで活躍させています。二人ともサイクルのカギを握る人物だけあって、69a「銀河への強襲」や88b「最後の一分」など、あわや太陽系帝国滅亡かというギリギリの展開も多いです。
 ダールトンが技術は敵から奪う他力本願超展開派だとすれば、ブラントは解決策はテラナーの頭のなかにある自力超理論派と言えそうです。

ウィリアム・フォルツ

初出
37b「戦慄」
担当作数
27話(〈アトランとアルコン〉4話、〈ポスビ〉10話、〈第二帝国〉13話)

 フォルツは、現在ハヤカワ文庫SF版が訳されている辺りにプロット作家を担当した重要人物です。〈アトランとアルコン〉サイクルでは4話のみ担当、〈ポスビ〉サイクルから積極的に関わっていきます。

 デビュー作37b「戦慄」は、ドルーフとアルコン帝国の板挟みにある太陽系帝国がぎりぎりの綱渡りをしている銀河情勢などどこ吹く風で謎のミュータントがオタマジャクシ級の宇宙船を乗っ取っていくというホラーじみた不可思議な作品でした。ここのメンバーは46b「秘密使命モルク」にも再登場しますが、そのほかの作品でフォルツが出す登場人物は、その話限りの使い捨てが多いような印象です。
 かと言って、マールのように独自路線ばかりというわけでもなく、〈第二帝国〉サイクル後半のプロフォス編では、90b「仮借なき敵」を始め、プロフォスにさらわれたローダン一行の苦難を最も積極的に担当しています。
 独自路線とメイン・ストーリーをバランスよく担当してきた作家と言えそうです。

H.G.エーヴェルス

初出
99b「最後の砦」
担当作数
1話(〈第二帝国〉1話)

 エーヴェルスのデビューはプロフォス編の締めくくりでした。いきなりそんな重要なところを任されるだけのキャリアがあったのでしょうか? 100b-150aまで100話構成となる〈島の王たち〉サイクルでは25話を担当と、これから活躍していく作家です。

総括

 ローダンが大いなるマンネリと呼ばれながらも(本国でも通じるんでしょうか?)50年以上にわたって連載が続いていることの一つの理由に、個性豊かな作家がそれぞれの持ち味を活かしつつ全体としてストーリーを紡ぐシステムが上手く働いていることがあるんだと思っています。
 振り返ってみると、プロット作家のシェールがサイクルを方向付け、ダールトンとブラントがそれぞれのやり方でストーリーを忠実に進めるところに、マールとフォルツが独自路線で世界に広がりをもたせるというように、役割分担が出来上がっているのがよくわかります。
 大型新人エーヴェルスを加えて迎える第5サイクル〈島の王たち〉からは1サイクル100話構成と長さも倍になりますが、さてどんな展開を見せてくれるでしょうか*1

*1:170巻までは一度読んでるんですけどね