進化の設計者

進化の設計者 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

進化の設計者 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 林穣治の提唱する、環境と生物の相互作用に基づく進化の新形態。
 進化学(進化論なんて言葉は中学高校の教科書にしか存在しない)は科学において常にホットな話題である。本作でも少しだけ出てくるインテリジェント・デザイン(ID)理論なんて強引なものがどこかのお国で公然と教えられたりするのも、未だに進化の神秘が完全に解明されないからだろう。本作はややエピジェネティック(DNA塩基配列の変化を伴わない、生物機能の変化。乱暴な例としては、環境が違えば双子でも風貌が変わるなど)を便利に使いすぎてる感もあったが、十分読み応えのあるものだった。分解・再転写を繰り返しているRNAのプール変動がそのまま継承されるというのは無理がありそうだというのと、エピジェネティックならDNAメチル化忘れちゃいけないだろう、など多少引っかかったところもあったが、この仮定に基づく進化の先行きにはわくわくさせられる。

 もっとも、一番熱が入っていたのはインターフェースと人間、動物の共進化で、この辺りは舞台を地上に降ろしたもののAADDシリーズと同じだったりする。
 現実をSF的仮定に基づいて外挿した世界観を構築し、その世界における人間の新しいあり方を思考実験する、という林穣治のコンセプトが貫かれているだけに、根幹のテーマが似通ってしまったのは残念でならない。


 ところで、この作品はずいぶんと他の作品を意識した作りになっているように感じられた。温暖化による気象変動の危機が満ちている中でのメガフロートなどの世界観は『日本沈没 第二部』を連想したりとか。
 一応ネタも引用しておこう。

「そうなんです。飾りじゃありません。技術に暗い偉い人なんかは、そういうことがわかんないですけどね」

 もしかして、過去の作品にも気づいてないだけでこういうのがしこんであった?