地球圏社会への布石?

 林譲治のAADDシリーズではAADD社会と対照する形で地球圏社会は旧態依然のまま硬直したものとして描かれている。その一要素が、途上国の工業化硬直――即ち、全世界が工業化するだけの資源がないから、途上国はそのままの技術レベルで止まっていろ、ということである。
 確かに我々並の生活水準を全世界で実現することは不可能であるが、この解決法は無茶苦茶過ぎる、と思っていたのだが、農業分野に目を移せば、まさに今現在、全く同じことが進行中なのだ。

 WTOは貿易自由化を目的とした国際機関であり、食料問題にも深く関わっている。身近な例で言えば、自給率100%を超えているにも関わらず、日本がコメを輸入しているのはウルグアイ・ラウンドに基づくものである。
 で、交渉中の新ラウンドにおける合意事項として「貿易に影響を与えるような農業生産刺激政策を禁ずる」という項目がもられた。つまり、日本のような農業弱国は永遠に自給率40%でいろということで、農業を工業に変えればまさに林譲治の世界である。
 この合意事項の是非についてこの場でとやかく言う気はないが、それにしても面白い一致だと思う。

参考:Domestic support: some you can, some you can’t
http://www.wto.org/english/thewto_e/whatis_e/tif_e/agrm3_e.htm

ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

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