太陽の簒奪者 野尻抱介 ハヤカワ文庫JA 2005.3

 34回星雲賞・ベストSF2002第1位の二冠は伊達ではない。

 突如水星の公転軌道に形成され始めたリングにより地球への日照が妨げられ、人類が危機に瀕するつかみから、リング物質の探査で異星文明の存在が次第に判ってくる中盤、物理的ファースト・コンタクトを試みる終盤と、起承転結全段階がだれることなく読める傑作。

 コンタクトに関わる双方が精緻且つ魅力的に書かれているのが、その最大の理由だろう。
 超光速など非現実的な技術なしに、数百年をかけてやってくる異星人は、作品の大部分で先遣自動装置であるリングの研究によってのみ描かれ、自衛以外の反応を示さないことから異質性が強調される。科学的考察がしっかりしているだけに、その存在感は圧倒的である。
 一方、物語の主人公となる白石亜紀のパーソナリティも印象的だ。異星人とのコンタクトに生涯を捧げ、周囲に利用されることがあってもそのひたむきさで乗り越える。リングと結婚したかのような面白みのない女性という仮面を被りつつ、内面では様々な悩みや欲求も抱える。
 両者に共通して特筆すべきは、強烈なパーソナリティが瓦解するときのカタルシスが最後を飾る作品が余に溢れている(ような気がする)中、最後まで特色が貫き通されることである。これが、さわやかな読了感の理由だろう。

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)