ハイドゥナン 藤崎慎吾 ハヤカワJコレクション 2005.7

 「日本沈没」を超える傑作ハードSF、がキャッチコピーの長編SF小説。Jコレの版型であのページ数、上下巻組みという分量は圧巻である。

 地球をコアから成層圏まで含めた巨大な情報伝達・保存系として捉えるISEIC理論を武器に、マッドな科学者たちが海底火山噴火による琉球列島の沈没を防ごうとする本筋は、海洋SFを得意とする(らしい)著者の深い考証が感じられる。

 全体としては、ISEIC理論という発想、深海探査への著者の愛(と、深海探査に十分に注力しない政府への不満?)、沖縄与那国島の独特な宗教体系など、描きたいことが多岐にわたりすぎて、十分に収斂できなかったように感じられた。それぞれの要素だけ抽出してくると、どれもかなりの迫力を持っているんだが、全体通して読むにはつらいかも。
 特に、共感覚者(色を聞いたり、音を味わったりと、刺激を複数の感覚で受け取る人)の主人公とムヌチ(巫女)に接触してくる「神」の存在がISEIC理論で説明されないのが残念だった。

 まぁ、さまざまな要素てんこ盛りなので、SF好きならどれか一つには引っかかるとは思う。

ハイドゥナン (上) (ハヤカワSFシリーズ・コレクション)

ハイドゥナン (上) (ハヤカワSFシリーズ・コレクション)