天冥の墓標I メニー・メニー・シープ(上・下)

 短編だったり、長くても文庫本3,4冊程度の小品が多かった小川一水による、全十巻(予定)の長編第1巻。全十巻とはいうものの、どうも上下併せて一巻カウントのようなので、上中下とか駆使されると二十冊を超えることになりそう。


 小川一水作品と言えば、比較的早期に問題設定がなされて、それを解決するためのチームが組まれて、プロジェクトX張りのドラマが主軸となって展開していくことが多いし、それを期待して読んでいるのだけれど、本作に限っては中々問題設定が現れない。一水作品には珍しく悪意を持った人物が何人も出てきたり、暴君的な〈領主〉はいたりと、敵役には事欠かないが、一水が人そのものをプロジェクトの目標に据えたことがないこともあって、今一盛り上がらない。
 そんなこんなで、わかりやすい伏線に気を留め、先行きを想像ながら読んでいくと……終盤でお茶噴きます。人が死にます、敵味方関係なく、あっけなく、サクサクと。え、一水読んでるよね、これG・R・R・マーティンと違うよね、と思わず著者を確認したくなるような急展開で、状況はスタート地点どころかマイナスになって第1巻は幕切れ。意表を突かれすぎて、「ちょ、おいィ」と叫ぶくらいしかできない辺りは著者の思うつぼ。普通だと、こういう形の著者から読者への「悪意」は余り好きでないんですが、あまり腹も立たないのは一水作品が根は善良だからですかね。


 植民星ハーブCを取り巻く状況は比較的わかりやすいことになっているので、今後どのタイミングで登場人物たちに明かされていくのか、それはどこへ繋がっていくのか、という辺りが今後の読みどころか。