ぷりるん。

ぷりるん。~特殊相対性幸福論序説~ (一迅社文庫)

ぷりるん。~特殊相対性幸福論序説~ (一迅社文庫)

 いや、やはり先月一番衝撃を受けたのは本作なわけですよ。


 両親は超多忙で家に戻ることはなく、元天才美少女の姉は出奔、そんな特殊な家で妹と二人で暮らしているユラキ。どこか他人と距離をとっているところの彼を疎ましく思った友人、可賀池はユラキを唆して彼が気になっていたクラスの子、桃川にけしかける。ユラキ以外には公然の秘密だったが、桃川はセックスを通して認めてもらえないと生きていけないセックス依存症で、押しの弱いユラキはすぐにグズグズの関係になってしまう。さらには兄好き好き大好き超愛してるの妹と喧嘩して家出され、入れ替わるように恐怖の根源である放蕩姉が帰ってきて……、そして、ユラキがどんな目に遭っていようと、気がつくと地下鉄で隣にいるご近所さんの「ぷりるん」。


 「ぷりるん。」はコミュニケーションの物語だ。コミュニケーションの意志を持たない故にすれ違い、誤解され、疎まれる。例え、互いに相手がムカツクと表明する、そんなことでもいいからコミュニケーションをしなければ、相手の事は分からないし、自分のことも分かってもらえない。「空気を読む」というのも確かに重要なことではあるけど、本当に重要なことっていうのは口に出してはっきりと伝えなければいけない。どれだけぷりるんがユラキの事を想い、ユラキを幸せにしたいとしても、そのことを表明しない限りはユラキにとって彼女は只の変人だし、彼女の行動で彼が幸せになることはないのだ。


 「僕はあなたが心配です。気になります。どこで誰とでもいいから、とにかく幸せになって欲しい」、そんな簡単なことすら言えなかった過去の自分に送りたい一冊。