喪の女王(1−8)

流血女神伝 喪の女王 (1) (コバルト文庫)

流血女神伝 喪の女王 (1) (コバルト文庫)

 〈流血女神伝〉最終章は北国ユリ・スカナが舞台、と見せかけて最後はルトヴィアに戻る。
 ザカリア本人の軛からは解き放たれたカリエだったが、神の意志とは関係なく宗教的にも政治的にも一私人としてはいられなくなったカリエの選択は――エドと逃げる! ……毎回同じ展開ですね。

 今回、カリエはバルアンやザカリアに帰依した甘ちゃん王女様からエドと逃げることに終始し、実は本筋にはあまり絡まない。本筋もカリエたちが動き回るユリ・スカナを舞台にしながらも、焦点はひたすらルトヴィアにある。『暗き神の鎖』までは文字通りザカリアの呪縛を解こうとするカリエの奮闘として〈流血女神伝〉を読むことができたが、ここに至って避け得ない滅びに向かうルトヴィアを巡る人々の物語に読み替えられる。

 少年少女が主人公の長編小説は、主人公の成長物語として描かれることが多い。ところが、〈流血女神伝〉の主人公であるカリエは最初から完成した人格を持っていて、経験を積むことはあっても人間としては特に成長するところがない。他の登場人物たちが、カリエと触れあうことで成長したりしなかったりする――成長どころか、カリエに裏切られたことでより残酷になる人がいたりするところが、この物語の容赦のないところでもあり、特異なところ。
 個人の力では逆らい得ない時代の趨勢に、新しい時代のことすら考えつつ抗うルトヴィア系登場人物たちの物語は圧巻。本編を読み出したらシリーズ名が〈ルトヴィア衰亡記〉に変化するくらいのギミックはあってもいいと思えるほど。

 全27巻と少し長いが、それだけのカタルシスは得られるだろう。