アイ・アム I am.

アイ・アム I am. (祥伝社文庫)

アイ・アム I am. (祥伝社文庫)

 菅さんと桜庭一樹の文章には似たところがあると思う。ベールを一枚一枚剥ぐように少しずつ露わになっていく感情の表現が二人とも卓越していて、それは鋭利なナイフを少しずつ心に沈められているかのような気さえ覚えながら、物語に引き込まれていく。しかし、最後に現れる生の感情のベクトルは大きく違う方向を向いている。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』や『私の男』が行き着くのはたった一人に対する妄執ともいえる偏愛。一方、本作や『プリズムの瞳』のような菅さんの作品が描くのは、自己理解に基づいた普遍的な愛。
 安心して読めるのは菅さんの方とはいえ、お二人の作品ともにその鮮烈な感情には惹き付けられてしまう。