荒野

荒野

荒野

 ファミ通文庫荒野の恋 第一部』、『同 第二部』の加筆修正に、書き下ろしの第三部を加えた完全版。なんで出版社が変わったんでしょう? というより、よくこの文体でライトノベル・レーベルから出してたな。

 『推定少女』、『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』から桜庭一樹を読み始め、『GOSICK』シリーズなどを読んでいないせいなのか、桜庭小説で初めて可愛いと思える女の子に出会った気がする。

 桜庭の小説には繰り返し登場するモチーフが幾つかあって、第一が少女以前、少女、少女以後の三視点から少女性を描くことであり、第二がエレクトラ/コンプレックスとも言える少女と父との関係性、第三に少女と家族。第一のモチーフが最初に顕著に出てきたのは『ブルースカイ』で、その後もほとんど同じ構造を何度も繰り返し書いてるので、実は桜庭自身も『ブルースカイ』が不満でもう一度書き直したいんではないか、とすら思えてくる。第二のモチーフが強調される作品は破滅に突っ込んでいくものが多く、最初に結末を提示してから、ジワジワとその結末に迫っていく桜庭作風の毒が強烈なものばかり。第三のモチーフでは少女/少女以後の変わり目に焦点が当てられて、起伏は少なくても余韻の残る終わり方をすることが多い。

 本作では三つのモチーフ全てが食い合うことなく共存しているという点で、現時点での桜庭の集大成と言ってもいいんじゃないかと思う。おまけに、描写は軽かったとはいえ珍しくきちんと同世代と恋愛してるし。

 ただ、『赤朽葉家の伝説』の、表紙にあるような真っ赤に朽ちゆく葉が一面に広がる世界に魅せられてしまったので、まだ自分の中での桜庭頂点は『赤朽葉』。