天体の回転について

天体の回転について (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

天体の回転について (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

 割と人に見られるのが恥ずかしい表紙。
 表題作は表紙そのまんまだというから困る。一番簡潔にあらすじを説明するなら、ませた少年が語尾にハートをつけて話すようなバーチャル・エレベーター・ガールの導きで天に昇り、ついには太陽系を飛び出していく話、だもんな。

収録作

  • 「天体の回転について」 〈SFマガジン〉 2005年2月号
  • 「灰色の車輪」 〈SFマガジン〉 2001年11月号
  • 「あの日」 『教室 異形コレクション
  • 「性交体験車」 〈SF Japan〉 2003年秋季号
  • 「銀の舟」 〈YOU& I SANYO〉 1997年1〜11月号
  • 「三〇〇万」 〈SFマガジン〉 2008年2月号
  • 「盗まれた昨日」 〈SFマガジン〉 2007年2月号
  • 「時空争奪」 書き下ろし

 「銀の舟」など型にはまりきった凡作もあったりで、作品の質のばらつきが大きい気がする。
 傑作だったのは「盗まれた昨日」。ある時点で全人類が前向性健忘症になり、以後の長期記憶を外部メモリーに頼るようになった世界の物語。何故かメモリは取り外し可能で、他人のインターフェースとも互換性があるので、たとえば親友とメモリを交換して他人ごっこをするなんて遊びもできたりする。事件以後記憶と、脳を含めた身体が完全に独立したものとして扱えてしまうこの世界だからこそ出てくる疑問――人のアイデンティティは身体にあるのか、記憶にあるのか。