京都SFフェスティバル2007

 今年も京フェスこと京都SFフェスティバルのレポートです。
 まず公式サイトはこちら。
http://kyo-fes.web.infoseek.co.jp/cgi-bin/Kyo_fes/wiki.cgi

昼0コマ目

 例年のごとく夜行バスで到着。いつもの京大会館だろうと思って何も下調べをしていなかったのだが、友人がmixiをチェックしてると、あわてて地図を印刷したという常連の日記が出てくる。あわてて携帯で公式サイトをみて、そこから地図までたどって一件落着。たしか、二年前にバス路線を検索かけようとしたときにはとてもじゃないがまともな表示がされていなかったことを考えると、携帯もウェブも進化したのだな。

昼一コマ目・自己言及式インタビュー

 小松左京賞落選後Jコレクションで続けてデビューということで、伊藤計劃とコンビでこういう場に出ることが多かった円城塔氏。ありそうでなかった、ガチで円城塔作品をハードSF的に語ってもらうという企画。

 基本的には円城氏のサイトに挙げられてるパワーポイントのver.2に沿って行われた。
http://self-reference.engine.sub.jp/?eid=309819

 内容はパワポを見てもらえればわかるだろう。わからなくても安心してほしい。会場では当然円城氏自身の口頭によるフォローはあったものの、それでもわからないものはわからなかったので。


 印象的だったのは、使わないようにしている言葉としてあげられていた、「データベース」と「物語」。

 オーミックス的な科学を、実寸代の地図をプロットしているかのようで面白くない、と切って捨てて見せた。ほしい情報が検索すれば出てくるという現状の永続性にも疑問を感じているらしい。検索が未だに名詞中心だというのも不満らしいが、そこはそろそろ次世代検索エンジンが出てきてるような気がする。
 オーミックスで使われる情報処理を何気なく統計と呼んでしまうこともあるが、本来なら統計は少ないデータからできるだけ多くの意味のある情報を抽出するための手段。オーミックスでは膨大なデータを人間が意味を把握できるようにかみ砕いて出力する情報処理が行われているので、実は統計ではなくてデータマイニング。得られた情報をダウンサイジングしなくては人間には使えない、というところは確かに効率がいいとはいえないですが……。

 小説は強い名詞さえあれば名詞の力で押し切れる。ところで、機能する文字列(=プログラミング言語)はあるのに機能する小説がないのは何故か? という問い。円城塔的妄想によれば、読んでるうちに計算が実行されるような小説のことを指しているらしい。

昼二コマ目・東浩紀×大森望対談

 のんびりお昼を食べていて、三十分以上遅れて入室。
 言及されているメタ小説を読んでいなかったので話の内容は追い切れなかったが、二人の話が全くかみ合わないのが笑えた。

昼三コマ目・ティプトリー再考

 長編『輝くもの天より落ち』刊行を記念して、あえてジェンダー抜きでティプトリーを語る企画、というのがワールドコンの時に持ち上がってたような気がした。が、始まったのはティプトリーの生涯をタイムラインに沿って解説するというもの。両親の経歴や二度のアフリカ探検、離婚にCIA勤務などものすごい人生を送っている方。
 が、午後の眠気が襲ってきて比較的早い時間に寝落ち。後半面白い話しあった?

昼四コマ目・さよならソノラマ文庫

 この企画は唯一再構成できるくらいにメモをとっているのだけど、諸事情のため途中編集しつつ。
 司会・三村美衣に、かつてソノラマ文庫でデビューを飾った菅浩江秋山完ソノラマ文庫の思い出を語るという企画。

三:「さよならソノラマ」企画なんだけど、会場に来る途中のジュンク堂でDの新刊を見つけちゃいました。ソノラマ文庫はなくなるとは言っても、Dや笹本祐一なんかは朝日新聞社からソノラマセレクションとして刊行が続けられる。あんまりさよならじゃないかも(笑)

三:ソノラマ文庫は75年、文庫ブームで各社が沢山文庫レーベルを出している中で創刊された。

菅:81年、『ゆらぎの森のシエラ』で本デビュー。
  少し前にガイナックスの人が『王立宇宙軍オネアミスの翼』でデビューして、身近な人のデビューが悔しくて『王立宇宙軍』コミカライズの原稿料を持って上京。毎日二十枚と決めて執筆の日々。コバルトに投稿した原稿が落ちた後に、ソノラマにシエラと学園物の構想を持っていって、相談の末シエラを書くことに。
  Dなんかも既にあって、ヤングアダルト・レーベルの中ではソノラマがあってる気がしてた。

秋:ハヤカワ新人賞佳作。でも未だに記念品もらってない(苦笑)。
  ソノラマの雑誌で募集していた賞で受賞。そのまま文庫も書かせてもらう。兼業作家だったので、他の出版社まで手を出す余裕はなかった。

                                                  1. +

三:ソノラマのイメージは?

菅:少女小説一大ブームの中で、SF+アニメ世代にとって丁度いいところにあったのがソノラマ。菊池秀行、高千穂遙がソノラマで活躍していた時代だし、海外ソノラマ文庫なども出していて、SFに冷たいはずがない。

三:SF至上主義なのね。

菅:もちろんですよ〜。
  笹本さんのような、キャラの力で押していく小説も台頭してきていたけど、一方で自分たちのように設定にこだわる作家もいたりで、バランスよくやらせてもらえる。

秋:ヤマトやガンダムのノベライズを読んで、アニメと活字は違うんだと思った。
  アニメやUFOなどのムック本で先駆的なイメージがあった。

                                                  1. +

三:好きな作品は?

菅:エマノンかな。印象深いのはD。こんな暗い雰囲気や、しみじみした理学は他のレーベルじゃ考えられないでしょ?

三:80-90年代頭くらいまでのライトノベルの中では突出していたね。

菅:クラッシャー・ジョウも楽しかった。早川、創元にはない、SFっぽくて、でも難しくなくてアニメっぽいところもあるのが。表紙が安彦良和だし。

秋:僕もクラッシャー・ジョウ。表紙で買った。
  他には笹本祐一の『大西洋の亡霊』。男の子の夢。

三:高千穂遙だと、ソノラマからクラッシャー・ジョウ、早川からダーティペアが出てたけど、イメージの違いは?

菅:両方安彦さん……(笑)
  高千穂さんは別格。ダーティペアで使われる「あによ〜」は新井素子の「あたし小説」に匹敵する。

                                                  1. +

三:最後に一言

秋:企画名だけど、さよなら……では後が続かないので、さらば……に変えて下さい。

三:さらば……のあとはない方がよかったんじゃ。

合宿0コマ目・サイン会など

 昨年暗黒星雲賞ものと大好評だったオープニングだったが、今年は何も行われず。もっとも、定時に実行委員が誰もいなくてOBが勝手に始めるのは毎年のこと。

 サイン会は菅浩江の『そばかすのフィギュア』にもらう。企画の時にも思ったけど、勝手に想像していたより若くて美人だった。柔らかい口調で内容は黒いというすばらしいお方。

合宿一コマ目・若者の部屋

 見慣れない人がいる、と思ったら2年前にも京フェスで話してたという……。人の顔を覚えるのは苦手です。

 遅れてやってきた関西大学SF研は、驚異の現役50人だとか。SFプロパーとなると、京フェス参加者が二人というところから推して知るべしだが、それにしても50人は純粋にすごい。

合宿二コマ目・大広間

 ずっと企画部屋1にいることになるので、あえて避けて大広間へ。
 外付けデバイスとしての「メガネ」の可能性について論じたり妄想したり。まだまだ安価になるICチップと組み合わせれば、まさに現実に右クリックをかけることが実現するんじゃなかろうか、という結論。

合宿三コマ目・ライブ翻訳講座

 大学ファンジンなどの翻訳を大森望がめった切りにする企画。部屋には他に東京創元編集者の小浜徹也もいて二人でばっさばっさ。ファン交のメール型ファンジンで翻訳をやっているので、その原稿も見てもらった。
 過去形と過去完了形をきちんと区別すべし、という話は去年もあった気がする。自分のやっている作品は修飾に修飾を重ねた長大な文で、日本語にするときにどこまでいじればいいものかずっと悩んでいたのだけれど、ここで参考になるコメントを幾つかいただけてありがたかった。原文の雰囲気をできる限り崩さないように、というのは未だに難題ではあるけれど。

 原文が複雑でわかりづらかったので、訳文もそこまでわかりやすいものにしませんでした、と言ったら、原文が下手だったので下手に訳した、という矢野徹氏の例を挙げて否定された。わかりやすくしますです。

合宿四コマ目・SF賞企画

 ファン交出張版として、世界のSF賞やその受賞作を比べてみる企画。裏に東浩紀やアニメ部屋という強力な企画が並んでいたこともあって、参加者もごく少ないまままったり進行。山岸真さんの詳しさには驚くばかり。

合宿・大広間

 企画が終わったあとは大広間で引き続き「メガネ」の話をしたり、旧田中邸ゲームをしたり。しかし、おおむね勝手知ったる9人で旧田中邸ゲームは結構不毛だと思った。

総括?

 昼をのんびり食べ過ぎたり、寝落ちしたりで昼企画は二コマしかまともに聞けてないという。菅さんがすばらしかった、というのが昼の印象。

 関西にも周りにSFの人がいなくて……という人が何人かいることがわかった。東京、京都だけでこれだけの人がいるんだから、全国探したらもっといるのかも。そういう人たちをうまく結ぶ手段ってないかしら。
 ウェブ・ベースのコミュニティは、生身のコミュニティ以上に発言する人と沈黙する人の差が大きいので、交流の促進という点ではその力に結構疑問を持っています。どうだろう?