王狼たちの戦旗(上・下)

王狼たちの戦旗 (上) (氷と炎の歌 2)

王狼たちの戦旗 (上) (氷と炎の歌 2)

王狼たちの戦旗 (下) (氷と炎の歌 2)

王狼たちの戦旗 (下) (氷と炎の歌 2)

 解説で堺三保も書いている通り、エピック・ファンタジー史の文脈において一つの指標となるであろう作品である。目の前で時代が築かれているという快感と興奮が得られる。

 この作品の魅力の一つに、やはり堺三保も指摘してるように、単純な絶対善悪の対立という構図から脱却した複雑なタペストリー構造をしているということがある。冷戦終結をもって、二項対立以外の世界図というのが改めて提示され、それをまず示したのが、二項対立の構図ながら双方の内外でも複雑な人間関係を構築した『時の車輪』シリーズだと思っているけど、二項対立をそもそも描かないというのは確かに西洋ファンタジーでは初めてなのかもしれない。
 もっとも、日本じゃ30年以上前に『グイン・サーガ』が実現してるけど。

 そんなマニアックな新規性を抜きにしても、この作品はすばらしい。運命に翻弄され、完全にバラバラになってしまったスターク家の子供たち、四つの玉座が入り乱れ、一瞬で事態が急変する戦場(ちょっと恣意的すぎる気もするが)、そして次第に明らかになっていく異形人や旧王家の驚異。どれも巧妙な筆致で描かれ、一時も目が離せないようになっている。