天涯の砦

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

 軌道複合体〈望天〉の事故により、孤立した残骸と月往還船からなる構造体。孤立した気密区画で生き延びた生存者たちは、ダクトを介したコミュニケーションを足がかりに生存の道を模索し、奮闘する。

 小川一水の作品は概して前向きで、善意に溢れている。彼の作品に純然たる悪が存在しないというのは有名な話だったが、そんな彼の欠点(そう言って良ければだが)は、この作品で見事に克服された。
 『ギャルナフカの迷宮』*1で描かれた相互不信の中の社会形成を更にシビアな条件でよりリアルに突き詰め、更にはそうした動きを阻もうとする悪意までもが織り込まれ、最後まで張りつめた空気が保たれている。

 間違いない、小川一水の進化は続いている。