シャングリ・ラ 池上永一 角川書店

 CO_2排出による温暖化にあえぐ一方、ナノテクの進歩により炭素の経済的価値が飛躍的に高まった結果、炭素本位経済に移行した世界において、CO_2削減のために熱帯雨林に変えられた東京。天空にはアトラスと呼ばれる巨大な人工構築物で生活を謳歌する人々、地上には遺伝子改良で旺盛な繁殖力を持つ植物相手に生活圏を必死で守る人々。物語は、ゲリラの長として地上の人々を率いる少女を中心に進んでいく。
 と書くと、結構壮大な気がしてきたけど、どうだろう。

 結論を言ってしまえば、細かいことを言わずに大笑いしながら読むのが正しい小説だった。
 身の丈より大きな炭素製のブーメランで戦車を切り裂き、自由に森を駆ける主人公。50mもの鞭を自在に扱うニューハーフ。メスを自在に扱うマゾ女医。料理からバイオリン、バイクまで何でも完璧にこなす天才美女。etc.etc.
 とにかく、女性陣が突き抜けている。前半はブーメランの記述など結構細かくやっていたが、後半になれば「どけどけどけどけえ」である。女は執念さえあれば死んでも死なないのである。連載小説ならではのテンポ変化だが、それ以上に引っ張りが強いので、違和感なく読み進めることができるだろう。
 中盤からオカルト色も強くなっていくが、後書きで著者本人も言っているように、これは本州の人間には書けないだろう。もう無茶苦茶なんで、無意識のタブーを破られても笑いしか出てこないが。

 ベストSFかと言われると、確かに悩みもするが、面白い、という意味では2005年最強だった。
 一応真面目に一点だけ。
 ダイダロスはどう考えても先駆植物なので、一面焼き払ったらまず最強。