ケイオス・ヘキサ三部作

 先日サークルの後輩に借りた『ケイオス・ヘキサ三部作』古橋秀之電撃文庫)を二日ほど前に読破。試験期間中は色々はかどる。

 科学技術の変わりにオカルトが発達した世界、というと別段特徴のある設定とも思わないが、この三部作の世界観が独特なのは、オカルトへの宗教の関わり方である。殺人狂上がりの神父が入れば、都市を守るのは最強の坊主集団であり、神創成の試みの背景にはユダヤ教の秘宝がある――この無節操さは、特異な宗教観を持つ日本人のみが書き得る世界と断言できよう。
 以下サイバー・パンクの影響とか語ってもいいところだが、先人が幾らでもやってるだろうし、そもそもニューロマンサーで挫折した自分にサイバー・パンクが語れるはずもないので、すっ飛ばして感想めいたものを。

 全体通してだが、好みよりも狂言回し師が多すぎたように感じられた。出てくる人物の半分が壊れているようで、やや五月蠅く感じてしまう。とはいえ、これだけの人物を配しながら、3部に渡って精緻な伏線を張りめぐらせ、各作品ごときっちり回収してみせるのは古橋の才能だろう。読み進めるうちに感じる微かな違和感の源が最後に説明されるのはなかなかの快感である。
 登場する人物たちは、性格が壊れているにせよ壊れていないにせよ、皆精緻な背景を持って描かれる。没個性の殻に閉じこもるもの、虚ろな陽気さを発散するもの、様々いるが、皆その本質は押し隠し、それはにじみ出るように端々に表現される。この人物描写は誰にも真似ができないものだろう。

 しかし、自分がこの作品を手放しで褒めることができないのは、無敵の超人が多すぎることが原因だろう。特に、殺しても死なない〈ロング・ファング〉や最強の悪霊スレイマンが好きになれない。
 それを言ってしまうと、何故『デルフィニア戦記』をあれだけ気に入っているのか、再考しなくてはならない気もするが。

ブラックロッド (電撃文庫)

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ブラッドジャケット (電撃文庫 (0176))

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ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫)

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