ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 J.K.ローリング 静山社

 二冊抱き合わせで4000円なんて高価なものを学生が買えるわけもないので、実家に帰ったついでにハリポタ邦訳最新刊読んできた。一巻の4倍の分量だと言うから、大したものだ。

 この作者は、読者に受ける物語の構成というものを熟知しているように思える。つまり、どの場面でどの人物がどのように動けば読者が手に汗を握るか、どういう風に展開すれば感動するのか、そういったある意味フォーミュラな図式が諸所に見て取れるのだ。誤解されないように言っておくと、これは賛辞である。五万とありそうな学園ファンタジーのなかでこれほど(ジュブナイルとしては)長大な王道ストーリーが人気を得ているのは、このためだろう。

 そんなフォーミュラのなかで特に注目したいのは、“無敵のバリア”の破壊である。これは、スター・ウォーズの小説で最も年代の下ったシリーズであるニュー・ジェダイ・オーダーの第一巻で相棒チューバッカを失ったハン・ソロの言葉であり、即ち、主人公たちは無意識に自分たちの最終的な安全を守ってくれるバリアを信じているということである。読者も、登場人物以上にこのバリアの存在を信じている。そして、このバリアが破れたときには大きな衝撃を受けるのだ。その衝撃は、バリアが丹念に作り上げられてきたものであるほど大きなものになる。それゆえ、“フォースにバランスをもたらす者”と信じて疑わなかったアナキン・ソロが死んだときの衝撃は、自分が感じた中で最大のものだ。
 ――話がずれたが、注目すべきは、ローリングが如何に無造作にこのバリアを破り続けているか、ということだ。二巻では早速親友が襲われ石化し、それ以降も次々と主格の安全が脅かされる。そして、5巻ではついに絶対安全圏であったはずの学校の体制そのものが崩壊してしまい、一部では取り返しのつかないバリアまでが壊される。噂によれば、現在翻訳中の6巻ではハリー自身の次に絶対的なバリアすら破られるようである。と聞いたら、読まざるを得ないだろう。実に上手い書き手である。

 ただ、学校を巡る今回の騒動はやりすぎた感がある。ヴォルデモートに関するダンブルドアの主張が世間的に受け入れられないからといって、ここまであからさまな干渉が行えるというのは、まともではない。その辺は、児童文学という一般認識に守られているのだろう。
 とはいえ、『デルフィニア戦記』で気付かされたように、そういう無茶苦茶も嫌いじゃないが。

 ここのところ出版ペースが落ちているようだが、是非とも7巻まできちんと書き上げて貰いたいものだ。

 

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 ハリー・ポッターシリーズ第五巻 上下巻2冊セット(5)

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 ハリー・ポッターシリーズ第五巻 上下巻2冊セット(5)