『ストリンガーの沈黙』 林譲治 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション 2005.11

 『ウロボロスの波動』の続編長編であり、前作最終話「キャリバンの翼」から10年ほど後を描いている。プロジェクト型組織編成を行うAADDと旧態依然とした社会・経済体系を維持する地球圏の対立、突如始まった人工膠着円盤の不安定化、そして未知の知性体ストリンガーとのファーストコンタクトが迫るシャンタク2世号――これら三本の軸を物語は展開していく。表題作からは3本目の軸が主になるかと思いきや、太陽圏内の二軸の方が多く描かれているように感じた。おそらく、前者二軸の方が絡めやすかったというのと、元々架空戦記でデビューした作者の性向もあるのだろうが、その点では肩透かしをくらった感が否めない。

 前作では、AADDの人々が地球外で生活するにつれて変化していく様子を描いていたはずが、対象となる地球圏出身者が紫怨しかおらず、その特異性が分かりづらいままであった。しかし、今作では地球圏との直接の武力衝突(らしきもの)もあったりと、両者がすれ違う場面描写が多く、やっとAADDと地球圏の社会性の違いが分かってきたように思う。もっとも、AADDが特異な社会形態であるのと同様に、地球圏社会も現代からみると大きく異なる形態をとっているようだ。

 と、ここまで大して褒めてこなかったが、作品全体を見れば、十分に面白かったといえる。特に、AAD崩壊の危機に対処するアグネスや姪のアイリーン、紫怨のトリオはバランスがとれた人物描写であった。また、最終的にウエッブと人間の関わり合いで全ての筋がまとめ上げられた計算には脱帽するしかない。

 互いに理解し合おうとする異質な知性体、AADの中に住む魔物、そして深宇宙を進み続けるキャリバンと、まだシリーズは続いていくようであるが、全く予想がつかない。更に磨き抜かれた作品を期待したい。

ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)