あたしと魔女の扉

あたしと魔女の扉 (ハヤカワ文庫 FT ラ 3-1)

あたしと魔女の扉 (ハヤカワ文庫 FT ラ 3-1)

 久々のロー・ファンタジー
 「あなたのファンタジイの概念をくつがえす三部作」と煽ってはいるものの、概念として目新しかったのは、魔法は人が集まるところの方が強い=田舎より都市部の方が魔法が使いやすいという辺りくらい。

 数学に特異な才能を示す少女リーズンは、魔法的なものを否定し「魔女」の祖母を嫌う母サラフィナと二人でオーストラリアの田舎を転々と暮らしていたが、サラフィナが狂乱したのに伴い、祖母エズメラルダの家に引き取られてしまう。サラフィナの話とはほど遠い、清潔感溢れる家と優しげな祖母に困惑するリーズンだったが、エズメラルダの留守をついて裏口のドアから逃げだそうとするが……

 扉を開けると雪国でした、というとファンタジイでは〈ナルニア国物語〉が有名だが、本作の扉がつながっているのは現実世界のニューヨーク。そこで会った少女JTとともに、リーズンは魔法と自分の血の秘密に迫ることになる。

 伏線や、後の展開への引きの巧さは初期〈ハリー・ポッター〉シリーズに匹敵すると思う。三部作の一巻である本作では、原題"Magic or Madness"(魔法か、さもなくば狂気)通りの方程式もの的命題が提示されたところで一旦幕が閉じる。ニューヨークに迷い込んだオーストラリアの野生児リーズンの困惑に和みながら、今後の展開を楽しみに待ちたい。