テンペスト

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻

 終末期の琉球王国、国土の行く末を想う少女、真鶴は性を偽り宦官官僚、孫寧温として宮廷に入る。出会うのは、彼女の才と秘められた魅力に惹かれる親友、朝薫、距離を保たなければならないはずの薩摩藩士、朝倉雅博、そして彼女の才、若さをやっかみ、権益を守ろうとする既存官僚や王族たちの反発。
 友や王、師の助けを得て中華風宮廷に挑む少女、という構図は〈彩雲国物語〉とよく似ているが、こちらは数十年にわたる真鶴=孫寧温の生き様を描く一代記の体裁をとる。寧温の中には真鶴が、真鶴の中には寧温が潜んでいて、一方を殺すことは彼女自身の心も、周囲の情勢も許さず、彼女は常に二人の葛藤に揺れ続ける。


 琉球王国の終焉という史実と一代記を重ねるという構成からか、『シャングリラ』の無茶苦茶さはかなり押さえられ、代わりに真鶴=寧温の心情と宮廷の人間劇が丁寧に描かれている。一方で池上永一につきものの不死身執念女や魅力的な破天荒女性もちゃんと登場して、時々に疾走感を感じさせてくれる。そして約束された終焉を迎えた登場人物たちの心情。現時点での池上永一の集大成といえるんじゃなかろうか。
 どっちが好きか、といわれると『シャングリラ』と悩むけど、その辺は好みで。


 見返しの絵が美麗だ、と思ってチェックしたら、ソニーマガジンズスター・ウォーズの長野剛だった。納得。