ひとめあなたに…

ひとめあなたに… (創元SF文庫)

ひとめあなたに… (創元SF文庫)

 このところ菅さん始めとして情緒系のSFを多く読んでいるように思えるのだけれど、中でも新井素子の本作は現在の自分の感性と強く響きあうものがあった。いや、響きあう、というよりナイフを突き刺された、という方がしっくりくる。菅さんなんかはよく研がれたナイフをジワジワと沈められていく感じだけど、本作はひと思いに突き刺した後にグリグリひねられている感じ。

 一週間後に隕石が落ちてきて地球が滅びると知ったときに圭子が取った行動は、前日ガンを告白して彼女の元を去っていった恋人、朗に会いに行くことだった。仕事が放棄され交通機関も動いていない中、練馬から鎌倉への最後の旅の道中で、終末を前にした様々な人と彼女は出会う。

 彼女が出会うのは、この期に及んで自分の日常を続けようとする、どこかおかしな人たち――理想的な新婚生活を続けているつもりの女性、参考書を開き受験勉強にいそしむ少女、etc...
 「おかしい」という言葉は残酷で、世の中を「普通」と「おかしい」の二つに分けてしまい、自分が属していないと思う半分への理解を無条件で止めてしまう。共感感性の死!
 本作ではそんな一人一人の人生を掘り下げて、どんなに共感できない相手でも、年齢分の人生を歩んできた人間なのだと示している。もっとも、そんな背景を圭子が知ることはなく、どこか狂ったところだけを見て通り過ぎていく。いずれにせよ、皆死んでしまうのだし。

 「いろんな人に会うために生まれてきた」、終末を前にして、それこそいろんな人に出会って、圭子がたどり着く結論は、ある特定の個人ではなく、不特定の大勢と出会うことが人生だということ。それは決してであった人を受け入れることを意味しているわけでなく、共感できる人も、共感できない人もひっくるめてこそのいろんな人なんだと思う。
 自分と他人を峻別しつつも、その出会いに意味を見いだす感性が、丁度今の自分にはよく分かるし、また周りを見ていて色々思わせられる。


 ついでに、東浩紀の解説というか告白がなんだかかわいい。