猫の地球儀

猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

猫の地球儀〈その2〉幽の章 (電撃文庫)

　初秋山。
　天使こと人類が消え去って長いときが過ぎた宇宙ステーション・トルクには、人類が手を加えた宇宙猫たちが、天使の残したロボットを使って繁栄していた。彼らの信じる宗教において、宇宙空間に大きく広がる青い星は死んだ猫の魂が昇っていく場所、地球儀として神聖視されていた。そんなトルク社会において、魂を否定して、生身のまま地球儀へ到達することを目指す異端猫たちはスカイウォーカーと呼ばれ、社会を治める大集会から徹底した排斥を受ける運命にあった。
　幽は37代めのスカイウォーカーにして、代々のスカイウォーカーたちが継承してきた理論を元に地球儀に到達できるエンジンとポットを実際に造るところまできた黒猫だった。

　じゃあ、本作は地球儀に行こうとする幽とそれを阻む大集会の争いを描いているのかというとそうではなく、さらに二人の役者が登場する。トルクで人気の格闘技スパイラルダイブで、人気はないけれど実力はある孤高の白猫、焔とお気楽茶トラ猫の楽。
　本作は、自分の目標以外には一切関心を持たず一途に突っ走る二匹の猫が意地を張りながら互いを認めていく物語……ではなくて、相手に認めてもらいたいと願う自分に気がつく物語。二匹のエゴのぶつかり合いとも言えるスパイラルダイブは、ガジェットにこだわった描写も相まって手に汗握るものとなっている。
　幽の偉業で世界が変わることは決してない。幽は社会を棄てて自分の目標に没頭する異端者だからだ。一方で、自分のためとはいえ、社会のルールに従って名誉を手にした焔には、社会を変える可能性が残されている。完結した物語ではあるのは十分に分かっているけれど、この後のトルクをぜひ見てみたいと思う。