さらば愛しき大久保町

さらば愛しき大久保町 (ハヤカワ文庫 JA タ 9-5)

さらば愛しき大久保町 (ハヤカワ文庫 JA タ 9-5)

 ハヤカワ文庫版大久保町三部作遂に完結。
 と言っても、それぞれ世界観からして独立した作品なので、どれから読んでも構わなかったりしますが。

 今回は主人公が強いのに理由があったり、ヒロインの王女様までかなり抜けてたり、河合茂平がそんなに抜けてなかったりで、三部作の中では一番筋立っていたものの――その分、田中哲弥としての面白みは少なかったように思える。いや、他の二作品と比べてという話なので、面白いことに変わりはないのだけど。

 田中哲弥の何がそこまで面白いのか、と問われても答えに窮する。肩の力が抜けたような独特の語りが魅力なのは確かだが、それだけではないはず。『秒速五センチメートル』みたいに、体験できなかった甘酸っぱい青春の肩代わり論法は論外にしておきたいところ。
 つまるところ、もっと新作を書いてくれないとわからんので、ぜひぜひ仕事をしてください。


 そういえば、この三部作で注目すべき点がもう一つある。帯や目次、登場人物紹介がDVDを模したような体裁をしているのだ。なにせ、コレクターズ・エディションらしいから。
 特典映像ならぬ特典解説もついてたりで、中身のこだわりはなかなか面白い。ここまでやるなら、カバーがトールケースを模すところまで期待をしたいところだけど、さすがに予算とかフォーマットとかがあったんだろうなあ。残念。