アイの物語

アイの物語

アイの物語

 これはAIの物語であり、愛の物語であり、語り手であるアイビス自身の物語である。

 時代ははるか未来、かつての見る影もなく数少なくなった人間たちが機械に迫害される世界で、人間のコロニーを転々として物語を広める語り部である主人公は、戦闘仕様のロボット:アイビスに捕らえられる。しかし、アイビス語り部の怪我を治療したばかりか、彼に人間が地球の支配者であった時代に書かれた物語を語り聴かせることを申し出る。
 本作は、このようなメイン・ストーリーをインターミッションとして配置した短編集となっている。

 リレー小説や仮想空間と現実世界が交差する「宇宙をぼくの手の上に」、「ときめきの仮想空間」、前人未踏の冒険を求めてブラックホールへ向かう女性と孤独なブラックホール監視AIの会話をすがすがしく描いた「ブラックホール・ダイバー」などもよかったが、特に素晴らしかったのは、ヒトの交流を通して未熟なAIが進化・ブレイクスルーを起こす様を感情豊かに描きあげた「ミラーガール」と「詩音の来た日」だった。また、それら高品質な短編を効果的に配置して構成される長編としても、本作は素晴らしい。

 『ラギッド・ガール』がなかったら、本年ベスト1だったかも。