水晶の秘術

水晶の秘術―エレニア記〈2〉 (ハヤカワ文庫FT)

水晶の秘術―エレニア記〈2〉 (ハヤカワ文庫FT)

 『ダイヤモンドの玉座(下)』(角川スニーカー)の新装版である。上巻に当たる『眠れる女王』では世界背景が『指輪物語』と大差ないなどと大分悪し様なことを言ったが、そういった事々に目を瞑れば、物語そのものは極めて高品質であった。
 登場人物全員に複雑な背景と使命を明示的に与えなければならない、という強迫観念でもあったのではないかと思える『ベルガリアード物語』シリーズと打って変わって、自然な人物描写が生き生きとしている。人生の盛りも過ぎようかという中年男を主人公に据えたことで、無垢な少年の成長物語という当たることは多いがどうしてもオーソドックス感の抜けない筋書きから脱却したのも興味深い。

 というわけで、続刊に期待である。