デルフィニア戦記(全18巻) 茅田砂胡 C☆NOVELS/中公文庫

 乗鞍で勧められたのを契機に「デルフィニア戦記」を読んだ。5年前に中学卒業直前、図書館に入荷した一巻を読んだきりの再開だった。

 自分の読む小説のほとんどはSFかファンタジーであるが、どちらにも共通した視座として論理性があげられる。その点から、作品を大まかに二つに分けることが出来る。小説は本来虚構であるということを突き詰め、整合性に囚われずに創造力を自由に働かせる作品。そして、最小限の虚構を元に緻密な論理を展開する作品。
 デルフィニア戦記は、前者の作品である――というのも、やや寛大な評価か。デウス・エクス・マキナのヒロイン、主人公にあまりに都合のよい無理な展開の数々、伏線もなく突然明らかにされる真実……粗を数え上げれば切りがない。はっきり言って、雑である。
 とはいえ、そうした大味さを許容できる寛大さがあれば、十分に楽しめる作品だと言える。最大の魅力は、ややステレオティピックではあるが“特異な”登場人物たちの軽妙な掛け合いいである。恋愛話は受け付けない自分が中盤の結婚ラッシュ前後も楽しめたのは、三者三様に取り交わされる珍妙な会話の駆け引きが大きい。

 惜しむらくはそうした会話の軽妙さに読者が慣れてきた終盤にルウが登場したことである。解放されたリィの力は文字通りのデウス・エクス・マキナであり、もともとなかったも同然の論理性は完全に瓦解。それまでの粗に目を瞑っていられた自分でも、さすがに眉をひそめた。

 結局のところ、この作品を楽しめるかどうかは、どれだけ粗を許容できるかにかかっているのだろう。人物の魅力と会話の軽妙さはベルガリアード物語の上をいくと思うのだが。

放浪の戦士〈1〉―デルフィニア戦記 第1部 (中公文庫)

放浪の戦士〈1〉―デルフィニア戦記 第1部 (中公文庫)